私たちの教育とは「育ち方を教える」こと
見るもの、聞くもの、触れるもの、すべてに興味を持ち、敏感に感じ取り、「なぜ?」という疑問や好奇心を持つ力を備え、それに執着して考えようとする能力さえあれば、人間はあらゆる事象を学習の機会に変えていけます。その実現には、「五感」の鋭さが欠かせません。変化を動物的に、あるいは本能的に感じる能力は、勉強や普段の生活ではなかなか得られず、これを磨く環境が必要です。
空気、風、光、音、それらの色、反射、流れ、ざわめきを感じ、動物や虫の息遣いとその動きに気づき、草木の生命力の強さとしなやかさを知る。大地を走って、ときには躓いたり転んだりして痛い思いをする。決して人工的ではない世界、その大自然に身を置くことで、内なる自己と深く向き合い、集中する。
多様な事象を経験して体得することにより、物事への好奇心や探求心、執着心、真剣さが育ちます。それこそが人が自ら考え、行動する意思を形作っていくのではないでしょうか。ひいては「五感」を鍛えることに繋がっていくと思います。
私たちが考える教育とは、「教えて育てる」ものではありません。自らの力で育つ「育ち方を教える」ことを、教育と定義しています。
自分の責任で考え、行動できる人へ
都会の街中で目にする遊具、おもちゃ、ゲーム。コンピューターで作られた、制作者の意図による結論が導かれるような、そんなゲームで遊んでいても、人間が本来持つ「五感」を研ぎ澄ますことは難しいでしょう。大人が大人の視点で、理屈、理論で考えたものだからです。
現代の若者たちは、幼少期からリセットボタンを押せば何事もなかったかのように元に戻るゲームで遊んできました。しかし子どもは遊びを通し、遊びと言われるもの以外の、全ての経験を学んで行くものです。幼少期からの全ての経験、それも人との関わりや自然との関わりというものは、決して論理的なものではありません。ゲームのように全てが思い通りにいき、論理的に進むのでしょうか。昔のおもちゃは非常にシンプルでした。小さな子どもであっても、何もないところから想像力や知恵を絞り、ルールを作り、遊びの領域を広げていきました。両者には大きな隔たりがあり、後者の力こそが、若者たちの未来に必要だと思います。
また、人工物に囲まれて生活をしている今の若者たちは、論理や理屈に縛られて行動しがちです。人に対しての思いやりや気遣い、役に立ちたいという想いが希薄で、自分本位の生き方だけをしている姿が度々見られます。たとえばトラブルに見舞われると、人のせいにする、環境のせいにする、制度やルールのせいにする、そんな他責な姿勢が顕著に現れています。他責は都会では通用しても、大自然では通用しません。自分の行動が結果を招きます。そこに他人の責任、環境の責任が入り込む余地はなく、生きていくためには、全てが自責で考えなければならなくなります。物事を自分の責任で考え、判断し、行動できるからこそ、未来を見て、自らを正しい方向に導くことが出来るのではないでしょうか。
世代に応じた教育を展開します
最近の傾向として、子どもや若者がケガをしないように失敗しないようにと、大人が手を出す場面が頻繁に見受けられます。若者もそうやって助けてもらえるのが当たり前、手伝ってもらえるのが当たり前だと思っている節があります。残念ながら小さな頃からそのように教育されてきたという、外的な要因もあるのかもしれません。しかしながら、この行動は若者の成長を阻害する大きな原因のひとつとなっていると言えます。また、ゲームでリセットボタンを押すことを覚えた子ども達は「失敗してもやり直せばいい」という“正しい考え方”を、明らかに間違って学習してしまいます。リセットボタンを押してやり直せばいい、という甘えた思考で得た失敗は、“本当の失敗”ではありません。成功することしか考えなかったものの失敗した失敗にしか、“失敗の価値”は得ることは出来ません。安易にリセットボタンを押した子ども達は、逆に同じ失敗を避けることなく、何度も甘える人間になるのだと思います。
人は成長していく過程において、通過すべき失敗や経験があります。痛みを知ることで危険を察知する能力を養い、他人を傷つけてはいけないことを知ります。失敗することで、次は経験しないで済む動きや考え方を身につけ、回避します。辛さから自力で這い上がる術も習得していくのです。命に関わるような危険なことでない限り、小さな失敗を経験すること、大人もそれをあえて見守ることこそが、経験を積んだ大人がしてあげるべき本当の優しさであり、教育だと思います。
子どもや若者たちは好奇心と探求心を持ち、自ら挑戦していく力を育みます。大人は、子どもや若者に安易に手を貸すのではなく、「育てる勇気」「育つことを待つ勇気」「子どもが自ら育つまでの我慢」を身につけ欲しいと思います。
私たちが考える教育は、今一般的に言われている「学問の教育」とは根本的に異なります。
本物の自然に囲まれた「Kids com Farm」で、大きな生きる力を育みます。
「Kids com Farm」プロジェクトについて
「Kids com Farm」プロジェクトは、前述した想いからスタートしました。北海道は広大な手つかずの自然が残っているだけでなく、冬の凍てつく寒さを最も感じられる地です。今回開拓の舞台に選んだ南富良野町は、“太陽と森と湖の町”と呼ばれ、目の前に広がる景色の美しさ、ありのままの自然、透きとおる水、夏は30℃から冬は-30℃という、気候と温度の変化が極めて大きな環境の厳しさ、そこに住む人たちの温かさが何よりの魅力です。
南富良野町の人たちは、本プロジェクトの計画段階から私たちの教育観や理念に非常に共感していただけました。そして、町の中で一番素晴らしい土地を私たちに託していただきました。南富良野町の協力なくしては実現し得ないものでした。
「Kids com Farm」は、子どもや若者たちの正しい教育を、これからも南富良野町と連携を取りながら推進していきます。
開拓体験で、人間の核となる力を育みます
「Kids com Farm」は、東京ドーム7個分に匹敵する30ヘクタールという広大な敷地で、四季を通じて自然を感じ、人間に本来必要なモノを作る力、モノを使う力、住みかを確保する力、作物を作る力、食べ物や水などさえも自分たちで手に入れる力を育んでいきます。そしてそれらを発想し、生み出す想像力や知恵を育むのです。それを自分たちで成し得るには「五感」で感じ取る力を身につける必要があります。最近のキャンプ場のように整備されたものなど何ひとつありません。不便を感じれば自分たちの力で改良していく。必要なものは自分たちで確保していきます。
自分たちの力だけで構築していく過程において、学校で学んだ知識が実際にどう役立つのかに直面する機会が多々あります。たとえば「梃子の原理」。小さな力で重い物を動かすという、小学校の理科で学習する物理です。梃子という一本の棒は支点、力点、作用点から構成されます。支点を中心に、作用点に動かしたい物を置き、手元の力点に力をかけて梃子を回転させて重量物を動かします。
名前や原理原則は覚えていても、日常の生活でどのように活かされているか、理解している人は少ないのではないでしょうか。「Kids com Farm」では、開拓や開墾、生活訓練のプログラムを通して、金槌や釘、木板、釘抜き、ハサミ、大きな物では風車を使って梃子の原理を実践します。梃子を利用して、より楽に作業するためにはコツがあります。梃子(柄)の支点から力点までの距離を長くし、支点をできるだけ作用点に近づけること。3点の位置関係によって作業の質が大きく変わるのです。
ただそれらは、実際の作業現場では学校で学んだ理屈、理論で計算してから行動している訳ではないのです。実はそれらを大自然相手にさまざまな場面で実地体験することで、知識ではなく、経験で身につける。自分でどう工夫すればよりよくなるか、自ら考える力を習得する、感覚を身につける。目の前にあるものを分析し、原理原則を自分の希望に合わせて応用し、行動することを感性で捉えるのです。そしてそれが結果的に学校生活や社会生活の質を向上させるのです。生きていくために必要なものは、全て自分たちの手で何とかしなければならない環境が、その経験を大きな“生きる力”に育むと考えています。
ここを訪れる人たちへ。
誰でもこの「Kids com Farm」に来て自然体験をしてください、とは思っていません。休日の田舎体験ではありません。私たちの願い、考え、教育観に共感していただける方にお越しいただいて、生きていくために必要なとびきりの体験をしていただきたいのです。「Kids com Farm」はリゾート施設では決してありません。自然と対峙し、疑問を感じ、解決する力を発達させる施設なのです。ここでの経験、体験のプログラムは、出来上がったカリキュラムのように決まったストーリーはありません。自分たちでやるべきことを考え、自分たちで手掛け、開拓していくしか方法のない、本物の体験です。一度きりではなく、何度も何度も繰り返して訪れることができる、子ども大人を問わず関わる人たちの力の継承によって、本物の絆を20年かけて育んでいく、壮大な村作りプロジェクトです。
子どもをもつ保護者の皆さんは、子ども達の生きる力の育みに勇気を持って一緒に取り組むことを胸に、お子様を送り出してください。大人の方は、大自然でのプログラムを通して、都会でも役立つ本物の力を身につけることを目的にご参加ください。 海外の方は、約150年前の北海道開拓民の生活を体験し、古きよき日本の姿を五感で味わってください。
私たちは真剣に、“正しい人”“強い人”“真に優しい人”を育んでいきます。
株式会社キッズ・コム
代表取締役社長 西山 悟
西山 悟
長崎の小さな島で生まれ、少年時代を大自然に囲まれ過ごした。大学卒業後、広告営業と社長付き業務を経て1989年に独立。民間企業ならではの発想でベビーシッターサービスの「ラビットクラブ」をスタートさせ、都市型保育園「ポポラー」、事業所内託児所「プロペラ」等、全国規模でサービス展開できる体制を整えた。現在は預かるだけの保育の枠を超えて人材を育てる“体験型教育サービス業”を軸に、五感を育成するプログラムを取り入れた教育と、子育て理念を重視し、経営にも独自の発想をもって事業を展開している。